「7月7日、晴れ」 小さい頃、自分の誕生日についてお母さんに話してもらったことがある。 『―――日向ちゃんが生まれた今日はね、七夕って言うのよ』 『たなばた?』 『そうよ。七夕の日はね、一年に一日だけ天の川のあっちとこっちを渡って織姫様と彦星様が会うことを許されている日なの』 『織姫様と彦星様は一年に一回しか会えないの?』 『そう。日向ちゃんはそんなレアな日に生まれたのよ。ラッキーね〜』 『でも今日はお外雨だね』 『そうねぇ。七夕の日の雨は天の川が氾濫してるって言うからね』 『はんらんって?』 『川の水がね、洪水で溢れちゃうことよ』 『えっ!?じゃあ織姫様と彦星様はどうなっちゃうの!?』 『え?』 『だってだって!川のお水が溢れちゃったら二人とも川渡って会えないじゃない!一年に一回しか会えないのにそんなのひどいよぉ!それどころかもしかしたら二人とも流されちゃうかもしれないじゃないっ!』 『―――え゛っ!?』 『織姫様と彦星様が死んじゃうーーーーー!!』 『ああぁぁぁ日向ちゃん!!違うの!ママ間違えちゃった!この雨は氾濫なんかじゃなくってね!ああぁぁ、なんて誤魔化したらいいの〜〜!?』 『うぇ〜〜〜〜〜ん!!!』 『ひ、日向ちゃん泣かないで〜!ゆ、百合はどこに行ったの〜?ママこういうの苦手なのよぉ!パパ〜〜〜!!』 7月7日。 今日はオレの誕生日。 この日は毎年お父さんやお母さん、それに兄ちゃんがオレの誕生日を祝ってくれる。 お父さんやお母さんは数年前から海外に行っちゃったけど、それでもこの日はオレにお祝いの言葉を国際電話をかけて言ってくれる。 家でオレの誕生日を祝ってくれるのは兄ちゃんと、そして鷹崎になった。 鷹崎はおめでとうもプレゼントもくれるけど、でもあれって絶対兄ちゃんとご飯が目当てで来てるんだよね! 今日はオレの誕生日なんだから、オレが主役なのに! いっつもオレのこと子供扱いするけれど、オレだってもう立派に大人になったと思う。 だから、いつまでもオレを子供扱いする鷹崎が大嫌い。 鷹崎は今、ご飯を食べ終わってまったりとしてる。 ソファに座ってうちに来る前に買ってきたらしいバイク雑誌を読んでいる。 オレが横からジーッと鷹崎を見ていると、オレの視線に気が付いたのかふと鷹崎が雑誌から顔を上げてオレを見た。 「どうした、日向。なんかご機嫌ナナメだな」 ホラまた! もう子供じゃないって言ってるのに!鷹崎のバカ! 「別に、機嫌悪くなんかないもん」 オレはなんでもないように鷹崎にそう告げると、そっぽを向いて窓の方へと移動した。 「…ふ〜ん?」 鷹崎は意味ありげな笑みを浮かべると、大して気にもしてないようにまた雑誌に目を落とす。 なんだよ!どうしたなんて聞きながら気にもしてないじゃん! またそうやって軽く流すんだから! オレはカーテンを開いて外を見た。 ―――雨が降ってる…。 お昼曇ってたし、天気予報でも夜は雨降るって言ってたもんね。 空を見上げてみたけれど、やっぱり星は見えない。 「日向?何を見てるの?」 キッチンから片付けを終えて戻ってきた兄ちゃんがオレに声をかけた。 「んー、雨降ってきたなって思って…」 「ああ。今日はせっかくの七夕なのにね。これじゃ星も見えないね」 兄ちゃんはオレの言葉に同意すると、そのままオレの隣りまで歩いてきて一緒に空を見上げた。 「7月7日ってどうして毎年雨が降るんだろうね。織姫様と彦星様が会えなくて可哀想」 「織姫と彦星?」 オレの言葉に鷹崎が反応する。 ふん、だ。どうせ「まだそんなこと言ってるのか」ってまた子供扱いする気なんだろ。 「まだ覚えてるだ、日向」 兄ちゃんがクスリと笑ってそう言った。 「だって、お母さんが小さい頃にあんな話するんだもん」 「なんだ?何話されたんだ?」 鷹崎が面白そうだと雑誌を閉じた。 「うん、小さい頃にね、お母さんに『七夕の日の雨は天の川が氾濫してるから』って聞かされてね。それでオレ、そんなの織姫様と彦星様が可哀想!って泣いたことがあるんだ」 「その時の日向、ものすごく泣いたらしくて俺が日向のバースデーケーキ買って帰ってきたら泣きつかれて眠っていたんですよ。父も母もなだめるのに疲れたって苦笑していました」 「へぇ。見たかったな、そんときの日向」 微笑しながら話す兄ちゃんに、鷹崎も楽しそうに笑いながらオレを見た。 「今でもそう思ってんのか?日向」 ソファにゆったりと座りながら鷹崎がオレに問う。 どうせまたからかう気でしょ。分かってるんだから。 でも…。 「うん、今でも二人が可哀想だって思う」 子供だと思われても、でも今でもオレはこの日に雨が降ると二人のことが可哀想だと思う。 「だって一年に一回しか会えないのに、その貴重な一回が天の川のせいで駄目になっちゃうんだもん。この機会を逃がしたらまた来年まで待たなくちゃいけないんだよ?」 来年が晴れるなんて確証はどこにもないのに。 これでまた次の年も雨が降ったら、一体二人はいつ会えるんだろう―――。 「そりゃ違うぜ日向」 ふいに鷹崎がオレに向かっていつもの不敵な笑いを浮かべる。 「…何が違うの?」 突然の否定の言葉にオレは理解出来ずに訪ねてみた。 「七夕の日の雨は天の川の氾濫じゃないってこと」 「え?」 鷹崎は踏ん反り返ってソファの背もたれに両ひじを乗せ、足を組むと続けた。 「七夕の日に雨が多いのはな、二人が久々の逢瀬を誰にも見られないようにカーテンをするからなんだ」 「…カーテン?」 「カーテンですか?」 鷹崎の言葉に、オレも兄ちゃんも思わずきょとんとしてしまった。 「そ。んで雨は、久々に会えた二人が嬉しくて涙を流すからなんだぜ」 鷹崎の悪戯めいた表情に、兄ちゃんが楽しそうにクスクスと笑う。 「そうだったんですか。確かに一年ぶりに会うんですものね。誰にも見られたくないし、 嬉しくて涙だって出てしまいますよね」 「そうそう」 「…じゃ、毎年一回だけでも、織姫様と彦星様は会うことが出来てるの?」 「そうそう」 ……えへへ、鷹崎がそんなに自信たっぷりに言うもんだから、なんだか本当にそんな気がしてきちゃう。 意外に鷹崎だってそういうの信じてるところあるんじゃん。 いつもはオレのこと子供って言ってからかうのにさ。 そうか、七夕の日の雨は二人の嬉し涙なんだ―――。 「ま、一年ぶりなんだもんな。カーテンの意味も雨の意味もいろいろあるんだろうぜ。 雨は涙だけじゃなくて、二人の見られたくない体液が……」 バシィッ!!! にやりと笑ってイヤラシイことでも言いかけた鷹崎が兄ちゃんに殴られてる。 今のいい音したね、兄ちゃん…。 その夜、オレは夢を見た。 夢の中でオレは、なんと織姫様になっていた。 一年ぶりに川を渡って会う彦星様の顔は、止まらず流れ続ける嬉し涙でよく見えない。 「なぁに泣いてやがんだよ」 いつもと変わらない軽口をたたきつつも、オレを抱きしめてくれるその腕はとても優しい。 …自分だって会いたかったくせに。 オレは涙を押し付けるように顔を胸に埋めた。 そんな彦星様からは、ほんの少しタバコの香りがした―――。 「な、なんて夢を見たんだ、オレ!!!!」 朝起きたオレは、さっき見た夢を鮮明に思い出して思わず叫んでた。 べべべ別にオレはアイツのことなんかなんとも思っちゃいないんだからっ! そう、いつだって子供扱いするアイツなんか嫌いだ……。 ―――大嫌いじゃないけどね…。 2003.7.7 Happy Birthday To Hinata... |
7月7日は日向の誕生日ということで書いて見ました。
鷹崎のことは、嫌い…?
日向少年にもいろいろ悩みがあるようです。(笑)
おめでとう、日向v
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