5月20日、星降る夜を君達と…


「ハァー…」
(ツイてないぜ、よりにもよって今日だなんてよ…)

ノートパソコンの画面を睨み続けながらやる気なさげにキーを打ち、龍葉はもう何度目か分からない溜息をついた。
(本当なら今ごろはもうとっくに終わってるはずだったのになー)


それは昼休みの出来事だった…。

「ギャーーーーー!!!」
職員室にこだまする龍葉の叫び声。
「ウソだろ…そこでフリーズするかぁ普通…」
龍葉は呆然としながら呟いた。
つい今しがた出来上がったばかりの明日のテストの問題を保存しようとしていたときであった。
突然エラーの音が鳴ったかと思うと、あとはそれきり目の前の画面は動かなくなり、反応を返さなくなってしまった。

「せめてあと一分待ってくれたら保存まで終わってたのにこの野郎ーーー!!」
龍葉は自分の怒りにすら反応を返さないノートパソコンに向かって怒りをあらわにしたのであった―――。

それからあっという間に放課後。
他の教員たちは龍葉に同情をし、肩をポンと叩き「頑張れよ」と声をかけながらも一人、また一人と職員室を出て行く。
(みんな今日に限って帰るの早ぇっての…)
そんな訳で、問題作り作業を1からやり直す羽目になった龍葉は、放課後、なぜかその日に限って誰もいない職員室で一人、デスクに座り溜息をつくのであった。
(百合の奴、生徒会の方にでも顔出してんのかと思ったらいつの間にか帰ってやがるし。帰るならせめて一声かけてくれたっていいじゃんかよー…)
職員室に誰もいないとはいえ、教員だって全員が帰った訳ではない。
部活や委員会の顧問である教員は、みんなそれぞれの場所に行ってしまう。
百合もそのくちで職員室から抜けたのかと思っていた。
しかし、よくよく百合のデスクを見てみると、百合の持ち物がなくなっている。
龍葉の最愛の相手である百合は、声すらかけずにいつの間にか帰ってしまったのであった。
(今日が何の日かなんて覚えてねえのかなー)
ますますやる気のなくなった龍葉はキーを打つ手を止め、気だるげに頬杖をついた。
すると、何気なく指先にピアスが触れる。
「そういや…百合からこのピアスをもらったのが、高3のちょうど今日か…」
高校3年生のときに百合にもらって以来、大切に身につけてきた、もう見なくても形を鮮明に思い出せる赤い石のピアス。
百合からもらった、龍葉へのバースデープレゼントであった。


それからしばらくして、やっとの思いで今度こそ保存まで行き着き、無事明日のテスト問題を作り終えた龍葉は、一人帰り支度をすませ教員用駐車場にやってきた。
「…星出てるし…」
薄暗くなり始め、星が見え始めたのを見て、思ったよりも遅くなってしまったことに再び溜息をつく。
(このまま帰るのも何だからなぁ。飲みにでも行くかな…)
お気に入りのバーに行くのも悪くない、そう考えながら愛車ゼファーχ(カイ)のもとまでやってきた龍葉は、そこに一人の影を見つけた。

「…日向?」
龍葉の愛車のもとにいたのは、日向であった。
日向は龍葉の姿を見つけると、待ちくたびれたような顔をたちまちパーッと明るくさせ駆け寄ってくる。
「鷹崎っ!やっと帰ってきたー!もうっ、なんで今日に限ってこんなに遅いのー!?」
「って、お前こそ何やってんだよ、ずっと待ってたのか?」
「うんっ」
日向が笑顔で頷く。
「うんって…。用事なら職員室来れば良かったじゃねーか。どうした?」
「…えへへー。実は、ミナと遊ばせて欲しくて待ってたの。でも『家行っていい?』なんて職員室で言いづらくてさ」
なるほど。
日向は龍葉の飼っている仔猫のミナと遊びたいがために龍葉を待っていたのである。
(…ちょっと期待しちまったぜ)
別に自分の誕生日を祝ってもらえないからといってどうだという年でもなくなっていたが、やはりどちらかと言えば祝われた方が嬉しいに決まってる。
日向に少し期待をしてしまった龍葉は、そんな自分に内心苦笑しながら日向の頭を撫でた。
「ま、いっか。オイ日向。そのまま今日うちに泊まってくか?夕飯外で奢ってやるよ」
「…んー、いいよ。でも夕飯はミナと遊んでからね!」
「あー?食ってから帰った方が何度も家出なくてすむじゃねえかよ」
「ダメ!それじゃミナが可哀想でしょ!」
「あーはいはい」
拳を握り締めて強く主張する日向に折れ、龍葉は日向にメットを手渡す。
「んじゃ、とりあえずうちだな。ホラ、これかぶってろ」
日向は龍葉からメットを受け取ると、慌てたように龍葉に声をかける。
「あ、待って!先にペットショップ寄ってよ!」
「あ〜?なんなんだよ。早く帰らなきゃミナが可哀想なんじゃないのかよ」
「そうだけどっ!でもミナにおもちゃ買って帰るの!その方がミナ喜ぶでしょ!」
「ったく、わぁったよ。ペットショップな」
龍葉は日向をゼファーχのうしろに乗せると、自分にしっかり捕まっているように言いエンジンをかけた―――。


日向の計画通り、ペットショップに寄って猫用のおもちゃを買い、龍葉のマンションつくと、夜空には星々がすべて顔を出しそろえた頃であった。
龍葉が先頭になり、自宅のキーを差込み回す。
すると、閉めたはずの鍵が開いていた。
「?」
カチャリ、と静かにドアノブを回し家に入ると、そこはすでに明かりが点っている。
そして奥のキッチンから夕飯のとてもいい匂いがしてきた。

「にゃぁ〜〜v」
ご主人様の帰宅をいち早く察知したミナが、仔猫特有の高い鳴き声を上げながら足元に甘えて擦り寄ってくる。
「ミナ?先輩帰ってきたの?」
ミナに続いて奥から出てきたのは、エプロンをつけた百合であった。
「…百合?」
「おかえりなさい、先輩。すみません、もらってあった合鍵使って入っちゃいました」
「え、や、そりゃ全然構わねえけど…」
「兄ちゃん〜!ご飯出来た?」
いまいち状況が飲み込めていない龍葉のうしろから、日向がひょいと顔を出す。
腕にはミナが抱き上げられてゴロゴロとノドをならしている。
「日向もご苦労様。ちょうどいいタイミングだったよ」
笑顔で百合に褒められ、日向はえへへ、と笑うと、後ろから龍葉の背を押した。
「ほらほら、早く玄関上がってよ!早くしないとせっかく兄ちゃんが作ったご馳走が覚めちゃうよ?」
「ご馳走って、え、まさか…」
「先輩、お誕生日おめでとうございます」
「鷹崎〜っ!おめでとうー!!」
兄弟二人に同時に笑顔で祝いの言葉をもらうと、らしくもなく驚いてしまった。

そのまま日向に後ろから押されながら部屋へ上がると、キッチンには百合が用意したたたくさんのご馳走がテーブルに所狭しと並んでいた。
「覚えてたのか、オレの誕生日」
「忘れる訳ないじゃないですか。高校生の頃にあれだけたくさん言われた日ですよ?」
百合がクスクスと笑う。
「先輩の誕生日を祝うのにご馳走を作ることにしたんですけど、どうにも時間が足りなくて。それで日向に先輩を足止めしてもらうことを頼んでおいたんです」
「あのねー、ケーキも兄ちゃんの手作りなんだよー。ね、早くご飯食べよ?」
「オレもうおなか減ったよー」という日向に、龍葉も笑いながら「オレもだ」と同意した。

それから三人席につき、もう一度百合と日向に祝いの言葉をもらい、晩餐が始まる。
ミナもミナ用に作ってもらったご飯を食べ満足そうにしている。

「はい、先輩。これ、俺たちからのバースデープレゼントです」
落ち着いたところで百合と日向が龍葉にプレゼントを渡す。
「オレに?」
「もちろんっ」
龍葉が受け取ったバースデープレゼントは、小さな箱であった。
「開けてもいいか?」
「どうぞ」
包みを開き、小さな箱を開けると、中から出てきたのは小さな赤いピアスであった。

「これは…」
そのピアスは、今龍葉がしているピアスよりももっと深い真紅の色の石であった。
特別な細工がしてあるわけでもない、とてもシンプルな作りであるのに、その見事な紅い色で存在を主張している石。
それは、ピジョンブラッドと呼ばれる、ルビーの中でももっとも紅い色をした石であった。

「芸がないでしょう?でも選んだのは日向なんですよ。兄弟で似たようなもの選ぶなんておかしいですよね。今つけてくださっているピアスもだいぶ前のものですし、ちょうどいいから変えてください」
「今してるのもかっこいいけどさ、それも鷹崎に似合うと思って。兄ちゃんとプレゼント見に行ったときにそれ一目見て決めたんだよー」

龍葉は突然イスから立ち上がると、身を乗り出し、テーブル越しに向かい側の百合と隣りにいる日向それぞれの頬にキスをした。
「わぁ!何するんだよ!」
「ありがとな!すっげぇ嬉しい」
日向から飛んできた拳をひょいと避けると、龍葉は嬉しそうに二人に礼を述べた。
そしてたった今もらったピアスをつけてみる。
「―――どうだ?」
「うん、やっぱり似合ってる!オレたちの目に狂いはなかったね、兄ちゃん」
「そうだね。先輩、紅い色すごく似合いますよね」
「そうだろそうだろ!何つけても似合ってしまうオレ様だが、お前たちがくれたものだから余計に似合っちまうだろう!んー、愛を感じるね」
軽口を言いながら、龍葉は自分の耳につけたピアスに優しげに触れた。
「…大切にするよ、一生。お前たちからのプレゼント。もちろん、昔百合にもらった方もな」
ありがとな、龍葉はもう一度心から感謝の言葉を二人に述べた。


百合が食器の後片付けをし、日向はミナと遊んでいる。
龍葉は一服すべく、窓を開け、ベランダに出る。
上を見ると、空には瞬くたくさんの星。
(いつもと同じ夜だが、今日という特別な日をお前たちと一緒に過ごせて幸せ者だよ、オレは)

ガラにもなくそんなことを考えていると、ポケットに入れていた携帯がメールの受信を告げる。
「ん?」
龍葉はタバコを口に咥えながら、受信ボックスを開く。

『お兄ちゃん、お誕生日おめでとうv  春菜』

「―――オレってばいろんな人に愛されちゃってるねー」
やっぱいくつになっても誕生日を祝われるのは嬉しいもんだと、龍葉は満足気に夜空に紫煙を吐いた。
龍葉の耳につけたピアスは、夜空に輝く星にも負けずに、紅く美しい光を放つ―――。





                                    2004.5.20 Happy Birthday To Tatuha...


あとがき?

えー、龍葉の誕生日ってことでまたもやバースデーネタをアップ。
百合の誕生日はどうしたというツッコミはなしで(爆)
文中に出てくるピジョンブラッドというルビーのピアスは、私がとても欲しがっている品。
なかなか私のイメージどおりのものが見つからず、悔しいのでせめて龍葉にあげてみた。
誕生日にアクセサリーをもらえるのってなんだかとっても嬉しくないですか?
ずっと身につけていられるって感じでさv

番外編のはずなのに、龍葉が仔猫を飼っているとか、妹がいるなんていうちょっとしたネタバレが含まれているのはこれ如何に…。
答えは本編が進んでいないから…(明白)
そして衝撃的事実。
ぶっちゃけた話、これ書いたの一年前の今日です………(大汗)


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