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その日の夕方。 いつものように一日の仕事を終え、学園を出て夕飯の買い物から帰ってきた百合と龍葉。 「すみません先輩。すぐに仕度しますから」 帰ってきた早々、キッチンに立ちエプロンをつけながら百合が言う。 そんな百合の姿を見ながら龍葉は、もはや自分の定位置となっているリビングのソファに座った。 「ああ。オレはお前の夕飯が出来るまでのんびりしてるよ」 龍葉はソファに落ち着きタバコに火をつけながらテレビを付け、リモンコンでチャンネルを操り今日一日のニュースを見始めた。 そこへ、少し遅れて日向が帰宅する。 「おかえり日向」 「ただいま、兄ちゃん…って、ああ!鷹崎が来てる!また夕飯食べに来たんだろ!」 「いいじゃねぇか。一人暮らしで可哀想なオレ様に優しさってモンを与えようと思わねぇのか、お前は」 「そんなこと言っていっつもオレに意地悪したり兄ちゃんに手を出そうとしたりするクセに!」 龍葉と日向。 二人はとても仲が悪かったりする…というよりこれが二人のスタイルというのだろうか。 日向はいつも百合に手を出す龍葉が気に入らない。 しかも憎きライバル鷹崎は、いつも自分を軽くあしらう。それが余計気に入らない。 だがいつもからかってはいても本心は優しい龍葉。 龍葉はいつも意地悪だが本心では日向のことももちろん気に入っている。 すぐに噛み付いてくるところが可愛いと思うし、容姿だって好みだ。(笑) (容姿の好みについては別として)百合だってそんな龍葉の本心が解っているからこそ、本気で二人を止めたりはしない。 今だって夕飯の仕度をしながらチラと二人を見ると、龍葉が日向を苛めながらも、タバコが苦手な日向の為、さり気に吸っていたタバコを消している。 日向だって何だかんだと言いつつも、龍葉に懐いているのだ。 「キーーー!いっつもいっつも!!今日こそは決着つけてやる!!」 「決着ってまたポーカーか?」 「そうだよ!今日こそ勝つ!!」 「ははは〜無理だな!お前弱いもんよ。このオレ様に勝てると思ってるのかよ」 「勝つったら勝つんだ〜!!」 そんな二人のやり取りに密かに微笑みながら百合は仕度を急ぐのであった。 それからしばらくして、テーブルの上には百合が作ったたくさんの料理が並べられていた。 「さて、それじゃ早速夕飯にしようか」 自分の料理の出来を見て満足気に百合が言う。 そしてそれを合図に龍葉と日向も各々テーブルに着く。 「そんじゃ、いただきま…」 プルルルル… まさに3人が夕食を開始しようとしているときであった。 控えめな音を出して電話が鳴る。 「タイミングいいですねぇ」 百合は小さくぼやきながらもすぐに音の鳴る方へと向かう。 「はい、四方堂ですが…」 せっかくだ、晩餐は3人揃ってから始めたい。 残った二人はどちらが言うでもなくそう思い、百合が戻ってくるのを待つことにした。 「夕食の後でアイス食べたいな〜」 「お前、夕飯食う前からもう次の食い物のこと考えてるのかよ…」 「いいじゃん別に〜。鷹崎も食べたいと思わない?アイス」 たわいのない会話をし始めていると、意外にも百合がすぐに戻ってきた。 「あれ?もう終わったの、電話…」 「誰だったんだ?」 「それが…何も言わないまますぐに切れてしまって…」 「間違い電話か〜?それにしても失礼なヤツだな」 「本当だね。そういえば昨日もあったよね、同じような電話」 「どこかの電話番号と似ているのかな?」 3人は電話のことを話題にしながらも、さほど気にも止めず夕食を開始したのであった。 プロ顔負けな百合の料理を心行くまで堪能し、食後のデザートも食べ終わったあと。 百合はキッチンで夕食の後片付けを、龍葉と日向はリビングでこれと言って何をするでもなく、テレビを見ていた。 「さて、食休みもしたことだし。オイ日向。構ってやるからトランプ持って来いよ」 「何さ、その『構ってやる』ってのは。―――トランプの前にオレ、ちょっとコンビニ行ってくる」 突拍子にそんなことを言い出した日向に龍葉と百合が注目する。 「ハァ?何買いに行くんだ?」 「アイス食べたいってさっき言ったじゃん。なんか今、何が何でもアイス食べたくなっちゃった」 「お前…さっきあれだけ食ってさらにデザートまで食って…。そのちっこい体のドコにそんなに物が入るんだ?」 龍葉が半ば呆れ気味に言う。 「ちっこいは余計なの!いいじゃん、今オレ育ち盛りだし!」 そんな龍葉に対し、ほっとけとばかりにぷんすかと怒りながら日向が返すのを聞いて、百合が声をかけた。 「それじゃ、車出してあげようか?」 「うぅん、いいよ。どうせそんなに遠くもないんだし、ちょっと食後の運動も兼ねて歩いて行ってくる」 ここから最寄のコンビニまで歩いて10分とかからない。 いくら夜になったとはいえ、そこまで心配するほどの距離じゃないよ、と日向は笑顔でそう言った。 それでも少し心配気な百合を見て、龍葉が助け舟を出した。 「そういえばオレ、タバコ切らしてたんだったわ。んじゃ、ついでにオレも行くかね」 「先輩…」 百合が龍葉の言葉に反応し、それなら安心とばかりにホッとする。 そんな百合を見て少し日向が抗議の声をあげた。 「もうっ!兄ちゃん過保護すぎだよー」 「日向は危なっかしいから心配なんだよ」 「そりゃ言えてる」 「失礼なっ!」 二人にからかわれて日向はまた抗議の声をあげるのであった。 それからすぐに出かける準備をして、二人は連れ立って家を出た。 夜道をゆっくりと歩きながら龍葉はタバコを取り出す。 シュボッという音をたてて愛用のジッポで火をつける。 そんな龍葉の前を日向がステップを踏むように軽やかに歩く。 そうしてふと振り返り、龍葉を見た。 「アレ?タバコないんじゃなかったの?」 疑問をすぐさま口に出して龍葉に尋ねてみた。 (やれやれ、まだまだお子ちゃまだねぇ、うちの王子サマは) もちろんあれは百合を安心させるため、日向について行く口実に過ぎなかった。 クスリと笑い、すぐさま返す。 「ああ、これが最後の一本なんだよ。オレ、タバコないと生きていけないからなー」 「ふぅん。タバコってそんなにおいしいの?」 「お前はやめときな。吸ったら将来もちっこいまんまだぞ」 「吸わないもん!」 またぷーッと怒ると、日向はまたタタタッと小走りをして前を歩く。 そうして思いついたかのようにいたずらっ子のような表情を見せながらまた鷹崎の方へと振り返る。 「あ、鷹崎ー。オレ財布持ってきてないからよろしくねっ!」 「テメェ、始めからオレに払わせる気だったのかよ。―――って、オイ日向、前向いて歩け!」 人通りがないとはいえ、うしろ向いたまま歩いたら危ないだろ、と龍葉が続けようとしたその時。 「わっ」 十字路に差し掛かった丁度その場所で、ドンッと、違う道から出てきた人にぶつかってしまった。 「…だから言わんこっちゃねぇ…」 呟いて、少し先の方で「スミマセンッ」と謝っている日向の方へ、龍葉も歩みを速めた。 「どうもすみません、コイツの前方不注意で。お怪我はありませんか?」 日向がぶつかった相手は、年が20代後半ほどに見える男性だった。 眼鏡をかけ、スーツ姿をしているその男は、真面目そうに見える。 すぐさま近寄って日向と一緒に謝ったときであった。 その男は龍葉の方に視線を移したとき、眼鏡の奥から鋭い目つきで龍葉を睨んだ…ように見えた。 しかしそれもほんの一瞬のことで、すぐさま相手は笑顔になり、龍葉にも軽く会釈する。 「いえ、こちらは全然大丈夫ですよ。別に体当たりをされたわけでもないのでね」 にっこりと笑って言う男は、一瞬前のあの表情を見なければ、とても好青年に見えただろう。 (…なんだったんだ?今のは。オレの気のせい、か?) 龍葉が内心でこの男に疑問を持っていると、隣りで日向が申し訳なさそうにもう一度謝った。 「本当にごめんなさい。あのあの、本当に大丈夫ですか?」 「本当に大丈夫だよ。君が相撲取りみたいに大きな人だったら分からなかったけれどね」 にっこりと笑いながら日向に返す男に、先ほどの違和感はもう感じない。 「…それじゃ、オレたちはこれで。本当にどうもすみませんでした。ホラ、行くぞ」 しかし龍葉は先ほど自分の内で感じた違和感を拭えきれず、すぐさまその場から離れることを選択した。 もちろんそれを日向に言うつもりはない。 「ったく、だから百合に危なっかしいって言われるんだぜ?」 「うぅ…。ごめんなさい…」 いつもの軽口を吐きながら日向の頭をガシガシと撫でてやる。 そうして自分の内で感じた違和感をしまい込みながらコンビニに向かったのであった。 |